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ep24 城に戻ると(2)

Author: 根上真気
last update Last Updated: 2025-04-21 07:01:15
「ウィーンクルム王子がお忍びでブラッドヘルムに来ていた、ですか......」

話を終えたドリーブが退室し、三人だけとなった部屋で、エミルはため息をつくように言った。

「てゆーかさ」と、事の重大さを理解していないリザレリスは背もたれに体を預けながらのん気に言う。「それのなにが問題なんだ?」

エミルの目が点になるが、ディリアスは半ば感心したように軽く吐息をつく。

「さすが王女殿下は大物ですね。確かにこうなってしまった以上、焦っても仕方ありません」

「だって王様が来たわけじゃないんだろ?」リザレリスはあっさり言ってのける。彼女は深く考えていない。「王子が来たぐらいでさ」

「おっしゃるとおりです。しかもお忍びということは非公式ということ。ただ、問題はタイミングなんです」

「タイミング?......あっ」

「気づかれましたか?」

「俺...じゃなくて、わたしと王子の結婚が話題になってたんだ!」やっと理解したリザリレス。「だからその話をぶち上げたドリーブのおっさんが焦りまくってたのか」

「さようでございます。もしウィーンクルム王子の機嫌を損ねることになり国交関係にも影響を及ぼすことにでもなれば、ドリーブ卿の政治生命にも関わることになります」

「ということは」リザレリスは閃いたようにぽんと手を叩く。「ディリアスの立場はむしろ安泰になって良いじゃん」

「いえ。私の立場の問題などは、国家の問題に比べれば瑣末なことに過ぎません」ディリアスは神妙に言う。「〔ウィーンクルム〕との国交関係が悪くなることは、国益に反します。それは由々しき問題です」

にわかに部屋の空気が重くなる。さすがのリザレリスも、肘掛けに肘を置いて頬杖をつき、難しい顔をする。

エミルは床を見つめて何かを考えていたが、ふと思い出したように口をひらいた。

「ディリアス様」

「どうした?」

「ウィーンクルム王子のお名前を、改めてお伺いしてもよろしいですか?」

「長男がフェリックス・ヴォーン・ラザーフォード。次男がレイナード・ヴォーン・ラザーフォード。その下がフレデリック・ヴォーン・ラザーフォード」

ディリアスの返答に、リザレリスとエミルは、やおら顔を見合わせる。

「ま、まさか......」

次の瞬間だった。また部屋の扉が慌ただしくノックされた。ノック音のテンポと強さから、先ほどよりも深刻さが感じられる。なにか急ぎの用であろうか。
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